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something happened


by exsaito5
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壊れている領域をスキップ、するなっつの

壊れている領域をスキップ、するなっつの_b0049638_102381.jpg
4年くらい前まで、一駅隣のコナミスポーツクラブに通っていて、そこで少しダンス仲間ができた。あるとき、暑気払いでもしようかと男、女二人ずつの4人で地元のイタメシ屋さんに予約を取って、お店で集合ということに。

お店に近づくと、なんだかいっぱい私服の人がいて、私服ってのはつまり、会社帰りとかの私服じゃなくて、平日の夕方にはこんなにはいないはずの、Tシャツ、ジーパンないまどきの若者集団男女十数人がいるわけですよ。回りには学校帰りの高校生とか近所の人達っぽい大勢が取り囲んで見てる。その中心には大きなカメラを持った若っぽいかっこのおっちゃんとか、ライト持ったおにいちゃんとか、化粧箱持ったおねえちゃんとかもいるわけですよ。

ふむふむ、撮影だよね、ドラマの撮影だよね、こんなのもあるよね、みたいな感じで、人をかき分けて予約をとったイタメシ屋さんに男二人で入る。俺は昔むかし、サラリーマン時代に広報室ってとこに所属してて、テレビコマーシャルとかの制作も広告代理店に発注してた。撮影現場も何度か立ち会ってるので、こんなものかという感じ。


しばらくして女の子二人も店に入ってくる。女の子二人は、こういう光景に慣れてないからか、ちょっと興奮気味。女の子二人に窓際のテーブル席の、奥側に座ってもらう。


と、女の子のうちの一人が、窓越しに歩道の方を見て、

「あ”っ! 森山未來だ!」

と。

「きゃー、ほんとだ」

みたいな会話が女の子二人の間で始まる。


モリヤマミライ?俺は知らん。相変わらず芸能人にうとい俺。


すると、


「隣を歩いてるの、ひょっとして蒼井優じゃない」

ときた。


蒼井優か。こっちなら名前知ってるぞ。


どうやら、森山未來という二十歳前後の俳優さんと、蒼井優が歩道を歩くシーンの撮影だったらしい。3回くらい行ったり来たり練習してる。俺らは食べ物注文したりワイン飲んだり、ああだこうだしゃべりながら、歩道の方を見てる。

と、お店に白いTシャツのおにいさんが入ってきて、頭下げながら言った。


「あのぉ、お客様、完璧にカメラ目線なんで・・・・・なんとかお願いできないでしょうか?・・・すいません」


なるほど、俺らは映ってるって事ね。よっしゃ、わかったって感じで、とにかくこのドラマ撮影に協力してやろうかと。



歩道を歩く二人は、なんとなく「しんみり」している。そこで俺らはそれの対比でにぎやかにイタメシを食べている演技をすることにした。


女の子二人も、楽しそうにわいわいとしゃべり始める。俺のオヤジギャグに対する反応もいつになくいいぞ。その瞬間、蒼井優と森山未來が歩道を通ったぁ!


俺らの演技はばっちりだった、はずだ。


なにか深刻なことを考えながら?ほとんど会話もせずに歩く蒼井優と森山未來。そのバックでは対照的に賑やかな男女4人。よくない?


イタメシも食べ終わって店の外に出る。まだ居る大勢の撮影スタッフ。同じ道路のちょっと先にコインランドリーがあるのだが、そこに蒼井優が入ったきり出てこない。ずっと出てこない。店のガラスドアの内側は、カーテンみたいので隠して外からは何も見えない。いったいあんな狭いところでなにを演技してるんだ?コインランドリーでバイトを始めたに違いない、などと完全に野次馬と化した俺らは撮影風景を見ている。

でも、一向に蒼井優が出てこないので、そこで俺らは解散となった。


俺は、家に帰ってググった。すると、俺の地元でエキストラ募集している映画があった。ドラマじゃなかった。映画だった。道理で撮影隊の規模が大きかったわけだ。タイトルは、


「百万円と苦虫女」


なんだこのタイトル。なんかネガティブなタイトルだな。あんまし好きくないな。だって、友達に自慢するときに言いにくいじゃないか。



「俺さぁ、こないだ撮影やってた映画に映ってるみたいなんだよな」

「ふーん、なんていう映画?」

「ん?      百万円と苦虫女」

「百万ドルと・・・にがむ・・・なに?」

絶対こうなる。


ま、実際、親とごく一部にしか言わなかったけどね。映ってるか映ってないかもわからないし。

映画公開はその日から一年後。イタメシ屋で一緒にいた女の子二人は、その後彼氏が出来たりで、あれだけ森山未來に興奮していたのに、まったく興味失せた模様。

もう一人の男友達の方は、森林ボランティアとかいう、木を切り倒してはげ山なった山に再び木を植えるという団体に没頭し音信不通に。で、俺は一人になった。映画が公開されても結局俺は見なかった。映ってる確信めいたものはあったんだけど、俺って映画館に一人でいけない弱い性格。友達誘うのも、なんとなく気が引けた。俺だけ盛り上がれないし。そうこうするうちに、DVDも発売されたけど、いまさら買う気が失せていた。


そんな撮影があった夏の暑い日から、3年半がたった。ネットで知り合った女性がたまたま中国で映像関係の仕事をしている方だった。中国のテレビ番組ではディレクターとかプロデューサーもしている日本人の女性。その方から富士山河口湖映画祭を見に行くというメールが来たので、合流して一緒に見ることに。


河口湖町の名もない道を歩きながら映画談義などしているときに、彼女がふと、


「中国のスタッフが、DVDで蒼井優の百万円と苦虫女を見て、すごくいいって言うんですよ。特に蒼井優がいいって勧めるんですよ。中国に戻ったら見てみようと思ってます」



おぉぉ、ここで出てくるか!「百万円と苦虫女」!



俺が返す。



「俺、その映画に映ってるかもしれないんですよ」


「え?ほんとですか?」


「蒼井優と森山未來が歩道を歩くシーンのバックに映ってるかもしれないんです。でもまだ自分では見たことないです」


「じゃ、中国に戻ったらわたし見ておきます」


「お願いします」


てな展開に。


帰宅後、俺は待ちきれなかった。買うぞと。3年半の月日を経て、ついに俺はこの映画のDVDを買うぞと!でもヤフオクで(せこいな)。


一番終了が近いのを優先に、安いのを見つけて、最低価格で入札。1600円。誰一人せり上がってはこない。翌日、落札。


で、すぐ届いた。DVDをデッキに入れて見始める。早回しで俺の出てくるあたりを探す。


あった!映画の半ば過ぎ、あのときの店の前の歩道のシーンだ!



すると・・・・


飛ぶ。


飛んだ。


シーンが飛んだ。

で、止まる。

DVDが止まる。

なんだよ、もう少しで俺が出てくるかもしれないのに!!!


なんどやっても同じ。

DVDをトレイから出して裏を見る。傷がある。さすがにレンタル落ちだから傷が多い。でも多少の傷ってCDもDVDも大丈夫だろ?今まで大丈夫だったじゃないか!


俺は必死にジーパンのもものところでごしごし拭く。汚れを取る。汚れは取った。でも傷はある。


今度はMacのドライブに挿入する。


同じだ。しかもMacはご丁寧なことに、



「壊れた領域をスキップします」


という表示が出る。

冷静に罰を宣告された感じだ。


悪かったんだ。俺が悪かったんだ。正規の料金を払ってDVDを買わず、レンタル落ちのDVDをせこく買った罰なんだなこれは。


でも俺はあきらめない。河口湖町で語った彼女に、この映画の話題を振ってくれた彼女に、報告したい。

「俺、映ってたよ」

って報告したい。

俺が映ってるかもしれないシーンのところをいったん通り過ぎて、戻るボタンを押す。ぎりぎりまで戻る。戻りすぎるとまた一瞬固まって

「壊れた領域をスキップします」

になる。

だからほんとにぎりぎりまで戻る。何度もやる。1時間14分36秒まで戻るのがぎりぎりだった。そこは歩道のシーンの途中だ。再生する。すぐイタメシ屋が近づく。蒼井優と森山未來が歩き続ける。


来た。

イタメシ屋だ。

植木があって、窓がある。


そのときだ。


黒髪の、男性らしき後頭部が、一秒くらい映った。


その黒髪の後頭部は、窓際にいて、右から左に頭を振った(ように見えた)。


俺は必死に思い出す。あのとき右隣には、森林ボランティア野郎がキャップをかぶって座っていて、俺の向かい側には犬のトリマーをやってる女の子がいた。俺は森林ボランティアの方を見て話しかけ、次に犬のトリマーの女の子に目線を向けた(ような気がする)。それが映っていたのだ。

しかも、俺だけだ。正確には俺の後頭部だけだ。顔も、背中も、肩も、首すらも映ってない!本当に後頭部だけだ。


そう、俺は

「後頭部だけ出演」


したのだ。


まったく、俺のなんの変哲もない後頭部・・・。監督さん!

ま、いいか。


壊れている領域をスキップ、するなっつの_b0049638_0374218.jpg

(俺の後頭部が蒼井優の右側に小さく見える)


つか、今となってはこのDVDの飛びをなんとかしたい。通しで見るときに飛んでもらっては困る。俺はググった。すると傷を修復する装置があった。3000円しないくらいで安い。

速効でクルマに乗り、ヤマダ電機に行った。探したら隅っこの方にあった。貯まってたポイントを使ったので、ただだ(あいかわらずせこい)。


装置と言っても手動で、非常に目のこまかい研磨ドラムみたいのを、ハンドル回して磨くだけ。ほんと人力で磨くだけ。60回回したら逆向きに回す、と書いてあったけど、200回くらいくるくるとハンドルを回して磨く磨く。次に、ドラムをもっと細かい目のものに入れ替えて、クリームをDVDに塗布し、再び回す回す。最後に拭き取る。


で、おそるおそるドライブに入れてみる。



おおおおおお、飛ばない!全然飛ばない!全くオッケーじゃん。


俺の映っているシーンが続けて見れた。素晴らしい。これで俺は正真正銘出演した気になった。

よかったな!俺の後頭部!


それと、エレコムのディスク修復機!ありがとさん!
by exsaito5 | 2011-02-25 09:31 | 雑記